迷子

彼女はいつからか迷子になってしまった。

初めは自分がどこにいるか、どうやったら帰れるか、わかっていた。

でも時間が経つにつれて、街の風景も見知らぬものになり、迷子になってしまったことが現実のものとなった。

彼女は焦って、走り回った。人々に声をかけた。だけど、それでも帰る場所が見つかるわけではなかった。

彼女は幼い頃の思い出をたどり、車で帰る、電車で帰る、バスで帰る、と一つずつ試した。

それでも迷子のままだった。

彼女は心が折れそうになった。このままずっと迷子で終わってしまうんじゃないか、と思った。

けれど、ある時彼女は一人の男性に出会った。

男性は彼女の手を取り、「大丈夫、一緒に帰ろう」と言ってくれた。

彼女は男性の手を握り返した。そして、男性が導くまま歩きだした。

すると、彼女はその時初めて、自分が本当に帰りたかった場所を思い出した。

彼女と男性は少しずつ、迷子から脱して、家を目指して歩きだした。

そしてついに、家の前に立った彼女は、それを見て涙を流した。

「本当にありがとう」と彼女は男性に感謝の気持ちを伝えた。

男性は微笑んで、「いいんだよ。元気になったら、また迷子になってこい」と言った。

彼女はそんな男性を見つけたことが、自分の人生の宝物だと思うようになった。


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