終着駅

私は長旅から帰ってきた。列車から降り立つと、そこは地元の小さな駅だった。

ぼんやりと周りを見回すと、ひとりの老人が私を見つめていた。その眼差しに誘われるように、私は老人に近づいた。

「おい、君は知っているか?」

私は聞こえないふりをして聞き返した。

「今から10年前、この駅は終着駅だった。いまはとうに廃止されてしまったが、君は覚えているだろうか。」

私は振り返って列車を見た。それは確かに何もなさそうな小さな駅だった。

「廃止された駅に戻ってくるなんて、住人たちにとっては許せないことかもしれないが、君にはお願いがあるんだ。」

老人は私に手紙を託した。それは、彼の孫娘への手紙だった。孫娘はこの駅で生まれ育ったが、今はこの町を離れ、自分が生まれた駅があったことさえ知らなかった。手紙には孫娘に自分が死んでしまったこと、そして生まれ育った駅に帰ってくるようにという老人の思いが込められていた。

私は孫娘を探し、彼女が住んでいる町に手紙を届けた。

「あの駅を訪ねてきたのは、約10年ぶりだった。孫娘の手紙を渡して、そして、その場所で私は老人が語った物語を思い出した。この終着駅は、その名の通り、何かが終わる場所だったんだ。しかし、同時に何かが始まる場所でもあったんだ。」

私はその終着駅が変わることはないだろうと確信した。


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