私は大学を卒業したばかりの新入社員でした。入社式の日、初めて会った同期の中に、私にとって初めての恋人がいました。
彼女は、小柄で可愛らしい顔立ちで、大学で美術を専攻していたようでした。私自身も、幼少期から美術に親しんできたこともあり、話が合い、以降仕事の合間によく一緒に美術館や展示会に行くようになりました。
ある日、彼女と一緒に訪れた美術館で私たちは、草むらの先に立つ女性を描いた油彩画に出くわしました。
見る者を引き付けるような、一瞬の息もつけないような美しさ。
私たちは、ぼうっとしてしまうほどその絵に魅了され、しばらくその前に佇んでいました。
数週間後、私たちは運動会の日に、草むらの先にピクニックをすることになりました。
その日、私たちは荷物を持って、草むらの先へと続く小道を歩きました。
突然、草むらの中の僅かなすきまから誰かの囁き声が聞こえました。
私たちはその声を聴きながら、草むらの先に力いっぱい駆け出し、そして、そこに立っていた女性が、先日私たちが見た絵の女性そのものだったのです。
彼女に言い寄りがありました。彼女の陰にある秘密に触れることなく、私たちは夏の青空の下、彼女と過ごした数時間を忘れることができません。
その後、彼女は友人たちの車で美術館に到着しましたが、私たちは彼女を見つけることができませんでした。
彼女が描かれた絵もどこにも無く、私たちはその日以来、草むらの先で、私たちだけの秘密を持つようになりました。
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